ボトルネック・ステーション

ボトルネック・ステーションとは、生産ラインの中で利用率が最大のステーションです。生産ラインのキャパシティボトルネック・ステーションのキャパシティによって決定されます。しかし、生産ラインのキャパシティが常にボトルネック・ステーションのキャパシティに等しいかと言えば、必ずしもそうとは言えません。
もし、生産ラインに1つのラウティングしか存在せず、かつ、そのラウティングにループが存在しない(=ラウティング中に同じステーションを使用する工程が2つ以上登場しない)ならば、生産ライン内の全てのステーションスループットは同じなので、ボトルネック・ステーションのキャパシティがそのまま生産ラインのキャパシティに等しい、と言うことが出来ます。(下図)

しかし生産ラインに1つのラウティングしか存在しない場合であってもラウティングにループが存在する生産ラインの場合は(下図)

ボトルネック・ステーションのキャパシティがそのまま生産ラインのキャパシティに等しい、とは言えません。例えば、上の図でステーションCのスループットは生産ラインのスループットの2倍になっています。もし、ステーションCがボトルネックであるとすると、生産ラインのキャパシティボトルネック・ステーションのキャパシティの半分ということになります。
生産ラインに複数のラウティングが存在する場合は、もっと複雑になります。

ラウティングが複数存在するので、全体の生産ラインスループットに占める各ラウティング毎のスループットの割合が変化すると、どのステーションボトルネック・ステーションになるかが変わる可能性があります。生産ラインに複数のラウティングが存在し、さらにラウティングにループが存在する場合はさらに複雑になることは想像がつくと思います。

利用率と稼働率

装置の利用率とは故障時間などを除いた装置が生産に使用可能な時間に対する実際に生産に使用した時間の割合です。

  • 利用率=実際に生産に使用した時間/生産に使用可能な時間

これに対して装置の稼働率とは普通、故障時間を含めた装置の運転時間に対する実際に使用した時間の割合を意味します。

  • 利用率=実際に生産に使用した時間/全運転時間


たとえば、全体の運転時間の75%を生産に使用し、15%の時間、装置が空いていたとし、残りの10%が故障の時間であったとしましょう。

この場合、稼働率は75%になりますが、利用率は75%/(75%+15%)=83%になります。


下の図はもっと極端な例です。

この場合、稼働率は10%ですが、利用率は100%になります。装置が生産に使用可能な時間を全て実際に生産に使用しているからです。

☆リトルの法則の厳密な証明

まず、時刻0から時刻tまでの、のべWIP

  • \Bigint_0^tWIP(\tau)d\tau

を考えます。ここにWIP(\tau)は時刻\tauの時のWIP数を表す関数とします。すると上記の積分は下図のオレンジ色で示した部分の面積を表していることになります。

この図でジョブJ_5よりあとに到着したジョブJ_6J_5より先に終わっているのに注意して下さい。サイクルタイムCT)に変動があるために、このようなケースもあり得ることをこの図で考慮しています。

次に時刻0から時刻tまでに到着したジョブサイクルタイムの合計を考えます。この例の場合、時刻0から時刻tまでに到着したジョブJ_1J_7です。よって、それらのジョブサイクルタイムの合計は、下図のオレンジ色の部分の面積になります。

これをTotal-CT1(t)で表すことにします。


さらに時刻0から時刻tまでに完了してラインから出ていったジョブサイクルタイムの合計を考えます。この例の場合、時刻0から時刻tまでに到着したジョブJ_1J_4J_6です。よって、それらのジョブサイクルタイムの合計は、下図のオレンジ色の部分の面積になります。

これをTotal-CT2(t)で表すことにします。


この3つの図を比べると、

  • Total-CT2(t){\le}\Bigint_0^tWIP(\tau)d\tau{\le}Total-CT1(t)

が成り立つことが分かります。この式をtで割ると

  • \frac{Total-CT2(t)}{t}{\le}\frac{1}{t}\times{\Bigint_0^tWIP(\tau)d\tau}{\le}\frac{Total-CT1(t)}{t}

となります。ここでジョブの完了数をC(t)とすると

  • \frac{Total-CT1(t)}{t}=\frac{Total-CT1(t)}{C(t)}{\times}\frac{C(t)}{t}

また、ジョブの到着数をA(t)とすると

  • \frac{Total-CT2(t)}{t}=\frac{Total-CT2(t)}{A(t)}{\times}\frac{A(t)}{t}

ここでt\rightar\inftyとすると

  • \frac{Total-CT1(t)}{C(t)}\rightar\bar{CT}
  • \frac{C(t)}{t}\rightar\bar{TH}
  • \frac{Total-CT2(t)}{C(t)}\rightar\bar{CT}
  • \frac{A(t)}{t}\rightar\bar{TH}

となります。ただし\bar{CT}は平均サイクルタイムを、\bar{TH}は平均スループットを表します。
よって

  • \frac{Total-CT1(t)}{t}\rightar\bar{CT}{\times}\bar{TH}
  • \frac{Total-CT2(t)}{t}\rightar\bar{CT}{\times}\bar{TH}

となります。
また、

  • \frac{1}{t}\times{\Bigint_0^tWIP(\tau)d\tau}\rightar\bar{WIP}

となります。ただし\bar{WIP}は平均WIPを表します。


よって

  • \frac{Total-CT2(t)}{t}{\le}\frac{1}{t}\times{\Bigint_0^tWIP(\tau)d\tau}{\le}\frac{Total-CT1(t)}{t}

  • \bar{CT}{\times}\bar{TH}{\le}\bar{WIP}{\le}\bar{CT}{\times}\bar{TH}

となるので

  • \bar{CT}{\times}\bar{TH}=\bar{WIP}

となります。つまり

となります。これでリトルの法則の証明が出来ました。

☆リトルの法則

リトルの法則というのは

が成り立つ、という法則です。


この法則が成り立つことは、サイクルタイムスループットが一定値の場合であれば、以下のように考えれば直感的に分かります。

サイクルタイムとスループットが一定の場合

  • ある生産ラインを考えます。このラインでのジョブサイクルタイム(CT)は10日、そしてそのスループット(TH)は2日で1ジョブ、すなわち1/2(ジョブ/日)であるとします。この時の各ジョブがラインに滞在する様子を横軸を時間にして下の図のように表しました。図中の空色のひとマスが1日を表しています。


  • この図ではWIPは図を縦に見た時のジョブ数になります。この図からWIPがCT*TH=10*1/2=5(ジョブ)になるのは直感的に分かると思います。

サイクルタイムとスループットが変動する場合

この時にリトルの法則が成り立つ理由については

をご覧下さい。

キャパシティ

キャパシティはスループットの上限のことを言っています。キャパシティは工場全体についても言えますし、ステーションについても言えます。ステーションのキャパシティは、そのステーションの利用率が100%の時のスループットになります。

工場のキャパシティの場合は、工場内のどれか少なくとも1つのステーションの利用率が100%になっているはずです。そうでなければ、さらにスループットを上げることが可能なはずだからです。よって、工場の中のどれか1つがそのキャパシティを決定するステーションになっています。これをボトルネック・ステーションと呼びます。

リードタイムと顧客サービスレベル

このブログでは、リードタイムはサイクルタイムと別の意味で用います。サイクルタイムは対象となるラウティング区間を通過するのに実際にかかった時間を意味しますが、リードタイムは通過する時間の目標値を言います。つまりサイクルタイムは結果であり確率的に変化する値ですが、リードタイムは目標であり定数です。
次に、顧客サービスレベルというのは、サイクルタイムが決められたリードタイム以下であったパーセンテージのことを言います。

上の図で青く塗った面積が顧客サービスレベルになります。例えば、顧客サービスレベル90%というのは、90%のジョブが決められたリードタイム以内に対象区間を通過出来、残りの10%のジョブはリードタイムを守ることが出来なかった状況を言います。上の図からリードタイムを長くすればするほど、顧客サービスレベルは高くなり、リードタイムを短くすれば、顧客サービスレベルは低くなることが分かります。